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膝の前十字靭帯再建靱帯手術を受けられる患者様へ

前十字靭帯損傷の概説

前十字靭帯は、膝の中央部を前後に走り、大腿骨と脛骨をつないでいる靭帯です。その最大引っ張り破断荷重は、およそ2000N(200kg重) です。

図1

 
 スポーツ活動中に、平坦な脛骨近位関節面(プラトー)を大腿骨遠位部(顆部と呼ばれるローラー状部分)が後方に滑って、膝関節が一時的に前方脱臼した結果、前十字靭帯損傷が生じます。 スポーツ傷害としては、高頻度なものの一つです 。
 ジャンプからの着地,急停止,急な方向転換,ジャンプの踏み切り時に受傷しやすく、バスケットボール,器械体操,バレーボール,ハンドボールなどの減速動作の多い種目で多発します。また、敏捷性テストとして行われている反復横跳び時の受傷もあります。一方、ラグビーやフットボール,柔道などのコンタクトスポーツでは、タックルなどが契機となり損傷されることも多いです。  

前十字靭帯損傷の自然経過

前十字靭帯は、一旦損傷されると、自然治癒することはありません。むしろ、断端が吸収され、時間の経過とともに消失してしまいます。治療を受けずに放置すると、前十字靭帯欠損による不安定膝となります。

図2


 しかしながら、このような不安定膝となっても、日常生活、歩行や軽い疾走が可能であることが多く、時に膝くずれを繰り返します。このように放置された場合、半月板損傷を合併し、引っ掛かりやロッキングを来すようになります。さらに放置すると関節軟骨の磨耗、変性を来し、若くして変形性関節症となり日常生活に支障をきたすようになります。

図3

前十字靭帯損傷の症状

(1)新鮮受傷時
・膝がずれた感じ(脱臼感)がして、“膝くずれ”を感じたり、ガクッと“音”が聞こえたりします。
・歩行は、何とか可能ですが、力が抜けた感じになり、スポーツ不能となります。
・徐々に関節内に出血するため、関節が腫れてきます。

(2)慢性期 膝くずれを繰り返します。
半月板損傷を合併した為、引っ掛かり感、嵌頓症状(ロッキング)を生じます。

図4

前十字靭帯損傷の治療方針

前述のように、一旦損傷された前十字靭帯は、自然治癒することはありません。断端を修復する一時縫合術を施行しても十分な治癒は得られません。
従いまして、(1)スポーツ活動を断念して、大人しく用心して生活する;又は(2)(当院でやっているような)正確な再建術を受けてと術後リハビリテーションを行い、スポーツ活動に復帰する、ということが肝要です。

前十字靭帯損傷の手術治療

自身の膝蓋腱(膝蓋骨下の腱)やハムストリング筋腱(膝後方の腱)などを用いて移植する関節鏡下再建術が基本です。なお、移植腱を採取した部位は、ずっと欠損のままではなく、70%程度再生します。
再建前十字靭帯は、新しく再生される靭帯の足場(scaffold)でありますので、正常と異なる部位に再建靭帯を設置すれば、非解剖学的再建靭帯と成ります。この場合は、再建靭帯を部分的にせよ破壊させて弛ませる必要がある為、苦痛を伴う大変辛いリハビリが必要になります。
しかしながら、やっとの思いで、正常関節可動域を獲得すると再建靭帯が弛んでしまい不安定膝となります。辛いリハビリに耐えきれず、関節可動域を獲得できなければ、可動域制限が残る拘縮膝となり 歩行にも支障をきたす事になります。従って、正常前十字靭帯に近似させた正確な解剖学的靭帯再建術を施行する必要があります。
我々が考案し、行なって来た再建術:骨片付膝蓋腱を解剖学的長方形骨孔前十靭帯再建術(Anatomical Rectangular Tunnel/ART ACLR )(図5,ビデオあり)や、ハムストリング腱を用いた解剖学的三重束前十字靭帯再建術(Anatomical Triple Bundle/ATB ACLR )(図6,ビデオあり)は、現存する中では、最も正常前十字靭帯に近い再建靭帯が出来上がる手術法です。

図5



図6


手術後のリハビリテーションのあらまし

術後の再建靭帯は、(活きた腱を移植しますが、)一旦 壊死に陥り徐々に再生されて数ヶ月間を経て強度が上がってきます。
関節の可動域制限を避ける為、術後1-2週より可動域訓練を始め、2~3週で体重負荷開始し、4~5週にて全荷重とする。ジョギングは3~4ヵ月にて許可。競技復帰は6~8ヵ月を目安とします。詳細はこちら

合併半月板損傷

前十字靭帯損傷に伴って不安定膝となりますと、半月板が存在する脛骨の関節面(プラトー)上を大腿骨遠位部(顆部と呼ばれるローラー状部分)が後方に滑りやすくなり、半月板損傷がしばしば併発します。
この場合、早期に修復術(図7)を行い、その温存に努めます。半月板の温存は、スポーツ選手の寿命にとり、重要です。

図7



前十字靭帯損傷を放置して不安定膝のままスポーツ活動を行うと、半月板がひどく粉砕され、修復不能に陥ります。従って、半月板損傷併発の場合、早期に治療を行うことが一層大切です。

前十字靭帯再建術の現況:非解剖学的再建術の蔓延

前十字靭帯再建術に当たっては、正常靭帯を正確に模倣した手術=解剖学的再建術を施行することが肝要です。しかしながら、現在本邦や米国などで施行されている前十字靭帯再建術は、殆どが非解剖学的再建術と言うべきものであり、再建術を受けたものの、膝は不安定なままという方が大勢おられます。

図8



このような場合、再建靭帯は可動域正常化した時点で切れることなく弛緩してしまい靭帯として機能することなく、不安定膝となり、膝くずれや半月板損傷に悩む事になります。
この為、当院では、他医にて非解剖学的再建術を施行された多くの方が、やり直し解剖学的再建術を、当センターで受けておられます。
靭帯再建術は、アキレス腱縫合術などと異なり、正確な解剖学的知識と的確で高度な関節鏡手術手技が必要であることを銘記すべきです。