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スポーツ整形外科

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前十字靭帯再建術後のリハビリテーション

前十字靭帯(ACL)は、下腿(すね)が大腿(ふともも)に対し、前にずれないように骨と骨をつないでいる靭帯であり、膝関節を安定させるために非常に重要な役割を果たしています。ACLが切れたままスポーツや重労働を続けると、膝がガクッとずれる亜脱臼を起こしやすく、これを繰り返すと膝の中にあるクッションである半月板や軟骨を傷めやすく、関節が早期に磨耗、変性します。このため、スポーツ活動などを再開するためには、関節を安定化させる靭帯再建術(靭帯に換わるもの=腱などを移植する手術)が必要となります。

手術後のリハビリテーションは、安全な範囲でできる限り早くに膝関節の動く範囲(可動域)を回復させ、大腿を中心とした筋力を回復させることが重要です。しかし、骨にあけた穴と再建靭帯が癒合するのに6~8週、移植後に弱くなった腱に細胞や血管が再生して、ある程度の強さに回復するまでに3~4ヶ月を要します。したがってこの間は、再建靭帯を十分に保護しながらリハビリをすすめないと再び関節が不安定になる危険性があります。

注意すべきことは、
1)早い時期から膝を完全に伸ばさないこと
2)正座様に最後まで膝を曲げたり、反動をつけたりして膝を深く曲げないこと
3)ベッド上で下腿のうしろにタオルや手を入れると、下腿を前の方に引っ張り出すので注意すること
4) 膝を伸ばした状態で大腿前面の筋肉(大腿四頭筋)に力を入れないこと(図1)です。

図1

再建靭帯がさらに再生するには、手術後6~8ヶ月を要しますので、この頃がスポーツや重労働への復帰時期の目安となります。ただし、再びけがをしないようにするには、筋力が充分に回復している必要がありますので、この頃に筋力を測定し、けがをしていない脚の筋力の8割以上回復していることが指標となります。
このような手術後の再建靭帯の特性をよく理解した上で、注意しながら、しっかりとリハビリを行うよう心がけて下さい。

手術当日
 手術後は、安静のため膝を少し曲げた状態にする装具を装着します。また、膝の腫れを抑えるためアイシング用の器具(クライオカフ)と血栓(いわゆるエコノミークラス症候群)の予防のために弾性ストッキングも装着して部屋に帰ります。しびれやむくみ、足が動きにくくなることがありますが、手術中に血流を止めていた影響であり、4,5日で消えますので心配はいりません。しっかりと足の指や足首を動かすようにしてください(図2)。

図2


術後1日

 車椅子での移動許可が出ます。つまずいたりしないように注意してください。手術した脚のつま先を軽く床に着けるのは構いませんが、体重はすべてよい方の脚にかけるようにしてください。

術後1-2日

 関節内に留置したチューブを抜きます。手術をしていない脚のストッキングは外して構いません。装具をつけたまま、大腿の筋肉に力を入れたり、脚をあげたりするトレーニングを開始します(図3)。また、膝の回りの筋肉などが硬くならないようにリハビリにて電気刺激(図4)を行います。

図3、4


術後5日
 回診の際、ガーゼを交換します。クライオカフや弾性ストッキングも除去します。必要な時には看護詰所に氷がありますので、トレーニングの後などは15~20分間、氷水で冷やしてください(30分以上冷やさないようにして下さい)。
また、膝蓋骨(おさら)の動きが悪くなると膝の屈伸もやりにくくなるので、膝蓋骨を上下左右に動かしたり、傾けたりしてください(図5、6)。

図5、6


術後10日
 抜糸を行います。翌日から入浴可能です。
入浴後売店で買ったマイクロポアという茶色のテープを、傷に対して直角に貼ってください(図7)。これは、傷の盛り上がりを小さくするためですので、3~4ヶ月間は貼り続けましょう。

図7


術後1週~2週
 膝蓋腱を移植した場合は、術後1週から3日間はCPMという機械(図8)を使って膝を曲げます。また術後10日より膝を曲げるトレーニングを開始します(図9)。ただし、2週までは90度までとします。トレーニング以外でも食事の時などに膝を垂らしても構いませんが、膝を自力で伸ばすことは避けてください。暑ければ装具を開いても構いませんが、膝の裏にロール状にまいたタオルなどを必ず入れるようにして、膝が-15度以上には伸びないようにしてください。尚、移動の時や睡眠時には必ず装具をつけてください。

図8、9


術後2週
 膝の曲げ伸ばしが始まります(図10)。ただし、絶対に逆に反らないようにしてください。
曲げる角度も135度が目標となりますが、反動をつけたり、自分の体重をかけて曲げることは避けてください(原則として術後6ヶ月間は135度以上曲げたり、正座しないでください)。

 日中は装具を外しますが、寝るときは術後3週まで装具を着用してください。
また、この頃から筋力トレーニングが始まります。ただし、膝を伸ばす大腿四頭筋トレーニングの際には下腿(膝のすぐ下あたり)にチューブをつけて、移植腱に負担がかからないように行います(図10、11:術後8週までは膝を伸ばす角度を70°までとし、以降12週までに少しずつ伸ばす角度を増やします)。

 ACL装具(黒)をつけて1/3荷重(両松葉杖で歩くこと:図12)を許可します。(ただし、半月板を縫合した人の一部は荷重が1-2週遅れることがあります。)このACL装具は、荷重歩行時に再建靭帯にかかる荷重を軽減するために、つま先から荷重するように仕向けるためのものです。術後、3ヶ月間は、歩行の際に装着するようにしましょう。

図10、11、12


術後3週
 2/3荷重(反対側の片松葉杖:図13)を許可します。膝の動きが順調に回復した人は退院が可能です。

図13


術後4週
 ベッド上にて膝伸展0度(他動的)を目指します。全荷重が可能です(松葉杖をとっても構いません)。退院の目安はこの頃となります。

術後2ヶ月
 大腿四頭筋トレーニング時の伸展制限を-30度とします(図14、15)。この頃から、軽いバタ足での水泳を許可します。ただし、この頃は最も移植腱が弱くなる頃ですから、十分に注意してください。

図14、15


術後3ヶ月
 軽いジョギング(図16)や自転車(膝が伸びすぎないようにサドルを下げて)を許可します。
ただし、急なストップや方向転換は禁止です。
 また、筋力測定(図17)を行います。大腿四頭筋トレーニング時の伸展制限は0度とし、マシントレーニング(図18)やウェイトトレーニングも可能です。これ以降は積極的に筋力アップに努めてください。

図16、17、18


術後4ヶ月

 少しずつ直線でのランニングのスピードをあげていってください(ストップできるスピードで)。

術後5ヶ月
 ジャンプ(図19、20)やストップ、方向転換の練習を開始します。スポーツ種目にあわせた動きも徐々に開始します。

図19、20


術後6ヶ月
 軽いスポーツへの復帰を徐々に許可しますが、筋力測定(図17)で十分な筋力が得られていない場合には、再損傷の危険性が高いので許可できないことがあります。また、接触プレーなどがある種目は避けてください。膝の屈曲制限はなくなりますが、半月板縫合を受けた人は、縫合部位への負担を避けるため、なるべく正座、和式トイレなどの深い屈曲位での体重負荷は避けるよう心がけて下さい。

術後8ヶ月
 この頃から、スポーツへの完全復帰を許可します。コンタクトスポーツも十分注意しながら行ってください。尚、リハビリは通常術後6~8ヶ月で終了しますが、術後2年目にレントゲン、筋力測定(図17)などの定期健診を必ず受けてください(術後5年、10年の時点でも)。

<原稿執筆>
エビデンスを参照した前十字靭帯損傷患者に対する理学療法の考え方と進め方、理学療法vol.36 No.1、2019、メディカルプレス
ACL再建術後のリハビリテーション-再損傷予防のためのプログラム-、臨床スポーツ医学vol.35 No.4、2018、文光堂
着圧ウエアのACL損傷予防への応用、臨床スポーツ医学vol.34 No.4、2017、文光堂

<DVD>
膝前十字靭帯再建術のリハビリテーション、ジャパンライム

<スパッツ共同開発>
Neomotion ACL、日本シグマックス社